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函館地方裁判所 昭和24年(ワ)451号 判決

原告 加藤松男

被告 岩井石太郎

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は森簡易裁判所が昭和二十四年九月十九日申立人被告、相手方原告間の同廳昭和二十四年(ノ)第六号民事特別調停事件につきなした強制調停は無効であることを確認する、訴訟費用は被告の負担とする旨の判決を求め、その請求原因としてつきのとおり述べた。原告は被告との間に昭和二十年四月頃耕作の目的にて北海道茅部郡砂原村字紋兵衛砂原三百八十五番地原野八畝十一歩と同村同字四百二十九番地原野四反七畝五歩の両土地を毎年被告の求めに應じ、原告は耕作その他の労務に服する定めにて借受くる約束をなし、爾來原告は約旨に從つて該土地の耕作を続けてきた。ところが昭和二十四年春突如被告は原告に対し右各土地の返還を迫つてきた。然し原告はこれに應じなかつたところ、被告は遂に原告を相手方として、右土地に関する紛爭を理由として森簡易裁判所に戰時民事特別法による調停の申立をなすに至り(同廳(ノ)第六号事件として係属)、同裁判所は同年九月十九日被告の申立の趣旨に沿い次のような調停に代る裁判をなした。即ちその裁判の内容の要旨は相手方たる原告が現に耕作中の前記三百八十五番地の土地全部と四百二十九番地の土地の一部は昭和二十四年十二月末日限り、四百二十九番地の残部の土地は昭和二十六年十二月末日限りそれぞれ申立人たる被告に返還することというにあつた。然しながら右の強制調停はつぎの理由によつて無効と考える。(一)先づ本件の如き小作関係の爭議については小作調停法による調停の申立をなすべきであつて、戰時民事特別法による調停の申立はなしえないものと解すべきである。然るに前記森簡易裁判所はこの点を看過して、被告の右申立を受理し戰時民事特別法に基き強制調停をなしたのであつて、違法も甚しく到底有効のものということはできない。特に本件調停は右の通り簡易裁判所によりなされたのであつて、元來小作調停法の対象となる事件については当事者が合意した場合を除き、一切簡易裁判所に管轄を認めていないのであるから、小作爭議につき管轄権のある地方裁判所がなした場合は仮に有効と解する余地ありとしても、少くとも本件の如く簡易裁判所のなした強制調停は無効たるを免れないものである。(二)次に本件各土地はもと荒地であつたが、原告が被告より借りうけて以來鋭意開墾した結果、耕作適地となしたものであるのに、前記森簡易裁判所はその点を顧みることなく、本件土地の外三町余の農地を所有し、その大部分を他に貸與している被告に対し本件土地を返還すべき内容の強制調停をなしたのであつて、これは原告側の利益を殆ど考慮しない極めて不当の裁判というべきであり、その瑕疵は無効に属するものと考える。(三)最後に都道府縣知事の許可をうけない小作地の引上げはその効力を生じないこと農地調整法の明定するところであるのに、右森簡易裁判所は北海道知事の許可をうくることなく、右の通り小作地の引上げを内容とする強制調停をなしたのであるから、本件強制調停は実質上の効果を生じないものといわなければならない。以上の理由により本件強制調停は無効であるから、その確認を求めるため本訴に及んだと述べた。

被告訴訟代理人は主文第一項同旨の判決を求め、答弁として原告の主張する事実のうち被告は原告に対しその主張する土地を貸したこと、原告が現に該土地を耕作していること及び被告が原告主張の頃その主張のように森簡易裁判所に戰時民事特別法による調停の申立をなしたところ、同裁判所は原告主張の日にその主張のような内容の調停に代る裁判をなしたことはいずれも認めるが、その余の事実はすべて否認する。原告主張の土地は農地ではなく、原野であり、而も該土地の貸借関係もいわゆる小作契約ではなく、無償にて貸したものであつて、被告の要求があれば原告はいつでも被告に返還することを定めた一時の使用貸借であると述べた。

<立証省略>

三、理  由

原告は被告から原告主張の土地を借りうけたこと(その貸借関係が賃貸借か使用貸借かについては爭いあり)及び原告が現に右土地を耕作していることはいずれも当事者間爭いがない。この事実と証人加藤リヱ、同山野安太郎、同岩井留藏の各証言及び原被告各本人訊問の結果(被告本人についてはその一部)を綜合すると、原告は被告との間に昭和二十年四月頃耕作の用に供するため被告所有の本件土地を毎年被告の求めがあつた際は、原告は被告方の畠仕事その他の耕作に從う定めにて借りうくる契約をなし、爾來原告は当時藪地となつていた右土地を漸次切り拓き、約旨に從つて農耕を続けてきたこと及びその後被告方では当時の人手不足が緩和され、農耕地の不足を感じたので、昭和二十四年春被告は原告に対し右土地の返還を求めたところ、原告は竣拒したので、結局双方より所轄農地委員会に対しその斡旋を願出でた結果、同年五月同委員会は原告は被告に対し右土地の半分を返還するよう勧告したが、原告はこれを不満として應じなかつたことを認めることができる。右認定に反する被告本人訊問の結果の一部は当裁判所のたやすく信を措き難いところであつて、他に右認定を左右するに足る証拠はない。而してその後被告は原告を相手方として原告主張のように森簡易裁判所に本件土地の返還をうくべく戰時民事特別法による調停の申立をなし、同裁判所は昭和二十四年九月十九日原告主張のような内容の調停に代る裁判をなしたことは当事者間爭いがないので、原告の主張する右強制調停の無効理由について順次檢討を加えることとする。先づ原告は本件爭議については小作調停法による調停の申立をなすべきであつて、戰時民事特別法による調停の申立はなしえないものであるのに、裁判所はこの点を看過して同法に基き強制調停をなしたのであるから、無効であると主張するので、この点について考えると、小作料その他小作関係についての爭議については原告主張のように小作調停法による調停を申立てるべきであつて、戰時民事特別法による調停の申立はなしえないものと解すべきこと今なお効力を有する戰時民事特別法第十四條の規定に照らし明らかなところである。而して本件調停の対象となつた爭議は前記認定の事実に徴すると小作調停法第一條にいわゆる小作関係についての爭議と解すべきであり、成立に爭いのない乙第一号証によるとこの間の事情は既に本件調停申立当時申立人たる被告において陳述していることが明らかであるので、右爭議について戰時民事特別法による調停の申立をうけた前記森簡易裁判所は、右申立を受理しないか、受理しても爭議の妥結見込なきときは速かにその手続を終結すべき措置を講ずべきであつたのである。それにもかかわらず、各成立に爭いのない乙第二ないし第四号証によると、同裁判所はこれを受理して調停手続を進行し間もなく調停成立の見込なき状況にあること判明したのにその手続を終結することなく、遂に前記の通り戰時民事特別法による強制調停の途に出でたのであつて、同裁判所の措置は当を失したものとのそしりは到底免れ難いところである。然しながら同法による調停につき準用のある金銭債務臨時調停法第十條によると、調停に代る裁判に対し即時抗告がなされることなくして確定すると、その裁判は裁判上の和解と同一の効力を有することが明らかであり、裁判上の和解は調書に記載したときは、その記載は確定判決と同一の効力を有することは民事訴訟法第二百三條の明定するところであるから、確定した調停に代る裁判は確定判決と同一の効力を有するものと解すべきである。從つて苟も調停に代る裁判が確定した以上は、再審の申立を求めうべき場合の外は、その裁判の効力は否定しえないものにして、弁論の全趣旨によれば本件強制調停に対しては当事者双方即時抗告をなすことなく確定したことが認められるので、右の通り前記簡易裁判所に当を失した措置があつても、これは再審事由に相当する瑕疵とはいいえないので、右の強制調停は有効というべきである。なお原告は簡易裁判所には小作爭議関係調停についての管轄がないので、本件の如く簡易裁判所のなした調停は無効であるというのであるが、所論は小作調停法による調停の申立があつた場合を前提とする議論であつて、本件は前認定の通り戰時民事特別法による調停の申立があつたのであり、同法によれば簡易裁判所に管轄権があるから、同法の規定に基きなされた強制調停は前説明によつて明らかな如く同じく有効たることに変りがない。よつて原告のこの点に関する主張はいずれも採用の限りでない。次に原告は本件強制調停は相手方たる原告側の事情を斟酌しない極めて不当の裁判であると主張する。なるほど調停に代る裁判をなすに際しては、当事者双方の一切の事情を斟酌し且つその利益を衡平に考慮しなければならないこと戰時民事特別法当該條文の明定するところである。よつて本件についてみるに、前示乙第一ないし第四号証と成立に爭いのない甲第一号証によると、本件調停の申立をうけた前記森簡易裁判所は屡々現地に赴いて、調停委員会を開き、当事者双方に十分陳述の機会を與えると共に、証人調べをもなして愼重を期した上、申立人たる被告の本件土地即時返還の申立を前記の如く全面的に許容することなく、一部排斥する強制調停をなしていることが認められ、右認定をくつがえす証拠もないので、同裁判所は原告主張の原告側の諸事情をも斟酌したものというべきであり、原告の不服とする如く当事者一方のみの事情を斟酌した片手落ちの瑕疵があるとは認められないのである。のみならず原告の主張する如き強制調停の内容についての瑕疵は、私法上の無効原因を問うておるものではないので、やはり前記説明のように再審の規定に基いて不服申立をなすべきであつて、本訴においてその瑕疵を主張することは許されないのである。かような次第にて原告のこの主張も採用に値しない。最後に原告は農地調整法の小作地引上に関する制限規定を無視してなされた本件強制調停は実質的にその効力を生じないものであると主張するので、この点についての判断を示すに、農地調整法第九條には都道府縣知事の許可をうけないでなされた農地の賃貸借の解除若しくは解約はその効力を生じない旨定められてある。然しながら右の制限規定は同條の規定する如く、賃貸借の当事者が解除若しくは解約をなす際に適用のあるものであつて、本件の如く当事者の関與をまたないで裁判によりなされた場合にまで、この制限規定を拡張することは明文上許されないところである。のみならずことを実質的に考えてみても右の小作地引上げの制限規定は元來対等の地位にあらざる地主、小作人間において自由に小作地の引上げに関する取決めをなさしめるときは、とかく小作人の不利を招くおそれがあるので、行政機関を関與させてその弊害を除き、延いてはとかく農業生産力の維持増進にうとい地主に農地が移動することを牽制し以て主として耕作権の確立を計ることを目的とするものであつて、同法の規定する農地價格や小作料の各統制規定の如く全国、画一的な統制を企図するものとはその保護法益が直ちに同一のものということができないのみならず、右の如き弊害の防止は、裁判所が調停に代る裁判をなすに際し、当事者の恣意を排して、双方の利益を衡平に考慮し、一切の事情を斟酌して十分考慮されるであろうから、右の小作地引上げの制限規定は調停に代る裁判には適用がないものと解すべきであり、この理は昭和二十四年法律第二百十五号による農地調整法の改正により強制調停以上にこの点に関する効力を問疑する余地のある小作調停法による調停には右の制限規定は適用されないと規定されたことによつても明らかなところである。尤も本件強制調停は前記の如く爭議の実体が小作関係であるにかかわらず、戰時民事特別法の当該規定に基きなされ、小作調停法の補充規定である農地調整法第十二條に基きなされていないので、その解釈を異別にしなければならないとの疑があるかも知れない。なるほど右各調停法規の強制調停に関する規定を参照対比してみると、小作調停法においては強制調停をなすに際しては小作官又は小作主事の意見を徴することを必要要件となしており、又その際必要の時は市町村若しくは都府縣農地委員会の意見を徴しうる旨の戰時民事特別法に存しない特別の定めがなされている。然しながら右の特別規定は要するに小作関係に通曉しおるべき者を関與せしめて、裁判所の誤判を防ぎ以て小作爭議の適正、妥当な処理を目的とするものにして、裁判所は強制調停に際し、その意見を單に参考に供するに止まり、毫も拘束されないものであるのみならず、右の規定の点を除けば、両調停法規とも強制調停の手続、効力についての定めないしはその規定の趣旨目的とするところ等いずれも全く同一であることを考えると、右の如き些少の規定上の差異をもつて、全設問の如く両法規に基く強制調停の効力を異別に取扱う必要は毫も見出し難いのである。更に全般的に両法規の規定するところを対照してみると、小作調停法においては戰時民事特別法とは異り小作爭議に明るかるべき小作官、小作主事、農地委員会或は地方の実情に通じおる関係市町村長等に対し、手続の各段階においてこれに関與する途を開く等の特別の規定を設けているので、なお疑いが残るかも知れない。そもそも調停制度の目的とするところは当該爭議につき調停が成立することにあること論をまたないところで、右の如き小作調停法における特別の規定も結局は爭議当事者を対等の地位に立たしめて、その足らざるを補い、過ぎたるを矯め以て当事者をして当該爭議につき迅速、適正な妥結をなすよう導くことを目的とするものである。然るに強制調停は調停の成立しない場合に始めてこれをなしうること両法規とも異るところはないのであるから、適切迅速な調停の成立を促すための手続規定に右の如き差異があつても、前提問の如く強制調停の効力を異別に解する有力なる拠点とはならないのである。以上の理由により小作地引上げの制限規定は本件の如く仮令戰時民事特別法に基きなされたものであつても、調停に代る裁判には適用がないものと解するのを至当と認めるのである。してみると原告のこの点に関する主張は本件土地の貸借関係が右制限規定の適用をうくる賃貸借にあたるかどうか等についての判断をなすまでもなく、採用することができない。

以上説明のように原告の本訴請求は失当に帰するので、これを棄却すべきであり、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條、第九十五條を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岩崎善四郎 森松万英 中久喜俊世)

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